好きな音楽と写真の話・・・。
切り絵とあわせてお楽しみください。
【深呼吸の必要~変わらずそこにあるもの】
ジョン・レノンの死が世界的に大きく報じられる中、ジョン・レノンと同じ年、同じ月(1980年12月)に39歳の若さで人知れず逝った孤高のシンガーの話をしたいと思います。
彼の名はティム・ハーディン。
1960年代、ニューヨークは学生たちを中心としたフォークブームに沸いていました。ボブ・ディランがそうだったように、ティム・ハーディンもそんなニューヨークで活動していました。
1966年のアルバムデビュー以降、彼の音楽人生は順調だったと言っていいと思います。1967年のセカンドアルバム「Tim Hardin 2」のアルバムジャケットには愛妻のスーザンと仲睦まじい姿の写真が使用されていることからも、公私ともに充実していた時期だったと思われます。
1970年代になると彼の身に暗い時代が訪れます。ジャズ畑のミュージシャンと深い関りを持つようになると、麻薬に手を出すようになり次第に彼の体は薬物に支配されていきます。(この時代、ロックミュージシャンよりもジャズミュージシャンのほうがより強いドラッグを使用していたと言われます。)
この薬物中毒が原因で、妻のスーザンと愛息のダミアンが彼のもとを離れていきます。
後悔先に立たず・・・。
妻と子供への思いは増すばかり、彼の苦悩は後期の作品に如実に表れるようになります。曲だけではなく、アルバムの裏ジャケや中ジャケに妻や子供の写真が度々登場するようになります。
今回は1971年に発表されたアルバム、"Bird On A Wire"(邦題:電線の鳥)の一曲目に収録されているアルバムタイトルでもある"Bird On A Wire"を紹介します。(オリジナルはレナード・コーエン)
歌い出しはこうです。「電線の上の鳥のように真夜中の聖歌隊の酔っ払いのように、僕はそれなりに自由であろうとした」
大空を飛ぶ鳥ではなく、電線の上の鳥。真夜中に騒ぐ迷惑な酔っぱらい。"自由"という言葉とは裏腹に、そこにはどこか閉塞感が漂っている気がします。
曲の後半はこんな歌詞です。「この歌と僕が働いた悪事にかけて誓う。僕は君に対して、その一切を償いたい」
コーラス隊をバックに歌い上げるその様から、悲痛な叫びが聞こえてきそうです。
結局、妻と子供が彼のもとに戻ることはなく、1980年12月29日、半ば自殺のような状態で彼はこの世を去ります。死因は薬物の過剰摂取による心臓発作。
追記
正直、ティム・ハーディンの作品は一般受けするものではないかもしれません。ですが人間臭い彼の曲を、無性に聴きたくなることが今でもあります。
また、彼の作品はこれまでたくさんのミュージシャンから支持されてきました。例えばこんな人たちがカヴァーしています。ロッド・スチュワート、ボビー・ダーリン、エルヴィス・コステロ、カーペンターズ、フォートップス、ジョーン・バエズ、etc.
そして、レイ・チャールズは「ライトニン・ホプキンス、俺に続く3人目のブルース・シンガー」と称賛しています。
Bird On A Wire-Tim Hardin
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